がしっ。

「ひぃっ!?」

伸ばした手を思い切り握られ、すぐに引っ込めようとしたが抜け出せない。

もがいているうちに棗君は欠伸をし、目覚めてしまったので私は固まった。

そして、私を視界に入れると目を少し見開いた。


「近ぇ」

「お、起きてたの!?」

「いや、なんか気配を感じた」

武士か、こいつ。


「あの、手、放して・・・」

「あ?あぁ、何で俺、お前の手、掴んでんだ?」

よかった・・・、気づかれていないみたいで。

私は何事もなかったように立ち上がり、壁に立てかけているギターケースに近寄った。

胸に掌を当て、自分の鼓動を確認する。


棗君に触れようとしていた自分を心の中で叱りつけ、出来る限り平然とした顔を保って振り向いた。



「寝てたのか、俺・・・」

「つ、疲れてるんだね・・・」

「授業中に体力回復してたけど、最近は曲書いてるから、回復しねぇ」

また欠伸をして、ギターを手にすると、何事も無かったかのように作曲作業を始めた。


「やっと来たんだな、葉っぱ」

棗君は視線を合わさず呟いた。

「葉っぱじゃないってば・・・」

「どっちでもいい」

心臓が落ち着いてくるのを確認し、再びソファに近づき、俯き加減で突っ立っていると棗君が気づいて訝しげに顔を歪めた。

「何だ」

「あの、棗君・・・。この前は、ごめんなさい」

勢いよく頭を下げる。

「あ・・・?」

「何で平気な顔で馨君が辞めてもいいって言えるのって、棗君のせいだ、って言っちゃって・・・。私、何も知らないのに、ごめんなさい」

棗君の表情は何も変わらない。

何を思っているのか、私には読み取れない。

それなのに、私の心の中ばかり読み取られているように感じる。

やっぱり、棗君の何もかも見透かすような目が苦手だ。