「俺、中学卒業と同時にこの色にしたんだ。春休みだったから何だって許されると思って好きだったドラマーの髪と同じにした」

中学の時に校則や規則で雁字搦めにされた生徒達が春休みの短い間だけ、その呪縛から解かれた解放感に浸り易い。

穏やかそうに見える馨君にもそうやって反抗期や自己顕示欲が強かった時期があったのか、と微笑ましく思った。


「その頃、好きだった女の子にね、この髪を褒められたんだ。光に透けるとキラキラ綺麗だねって。天使ってこんな感じかなって」

目を細めながら口元に笑みを作り、黒板を眺めていた。

そこに過去の記憶が映しているかのように。

「それって初恋?」

「初恋」

「その子とは・・・」

馨君は悲しげに首を振った。

「初恋は実らないって言うでしょ?」

「実らなかったの?」

「うん。死んでしまったからね」

泣きそうな顔を必死に笑顔で取り繕う馨君の顔を見た瞬間、心の奥を太い針が貫通していったかのような苦しさを感じた。


「その子は酷いいじめにあっていた・・・。それで、自殺してしまった」

重く圧し掛かるその言葉は音楽室の空気を暗いものにさせた。

自殺という二文字はどうして人をこんなにも悲しくさせるんだろう。

こんな音楽室を簡単に飲み込める程の威力を相手に与える悲しい二文字。


「いじめられていること、気づいていたのに俺は何もしなかった」

悲しげな目は口元に笑みを浮かべたままでも苦しみを語っている。

「それを今でも後悔してる」

馨君は机に体を預けたまま、自分の前髪を指で引っ張ってみせた。


「これはあの子を忘れない為の俺への戒め」


「戒め・・・」


窓から差し込む太陽の光に照らされて、色素の薄い髪色は本当に黄金の色に輝いている。

美しく輝くその髪色に課せられた物は見た目とは裏腹な悲しい過去。