いつもと何ら変わりない、でも嫌悪感と虚しさだけは日に日に増して行く日々が続いた。
咲綺ちゃんはいつもと変わらない様子だし、軽音部にも毎日誘ってくれる。
ただ、私が少しでも渋るとあっさりと諦めて自分は部室に向かって行く。
こうなってやっと私は咲綺ちゃんが言ったことを理解したような気がした。
『大切にしたい友達こそ本当のことを言った方がいい』
どこからか無限に湧いてくる虚しさは本当のことをちゃんと言っていないからだ。
中途半端にしか言っていないから相手に遠慮して踏み込めないでいる。
大切にしたい人こそ、議論しないといけないのかもしれない、と思い始めていた。
でも、どうやって切り出していいのかがわからない。
「佐伯さんのこと呼んでるよ」
クラスメイトが示す先を目で追うと、久しぶりに会う馨君が笑窪を作って手招いていた。
立ち上がると、女子達の嫉妬の眼差しを痛い程感じたが振り向くことは絶対にしなかった。
振り向いたら殺される。
そんな刺すような視線を背中に感じたまま、「出よう」と私から馨君を誘い出した。
「謹慎開けたんだね?」
昼休み中の音楽室を利用する人はいなく、誰の視線も感じることなく馨君と話すには最適な場所だった。
「少し前にね」
馨君は一番前の机に腰かけて、微笑んだ。
謹慎前とは変わらずの金髪ということは、やっぱり馨君は軽音部を辞めるのかもしれない、と寂しく思った。
「部活、来ないの?」
「え、馨君、部活行ったの?」
「こっそりね」
黒く染めるまでは軽音部に行くこと教頭から禁じられたはずなんじゃ、とも思ったが、謹慎を食らって練習できると喜んだ彼にはどうってことの無い事態だったのかもしれない。
「気まずいんだ?棗とも、咲綺とも」
「どうしてそれを・・・」
馨君は菩薩のような穏やかな微笑みを浮かべるだけでその質問には答えなかった。
「咲綺がスタジオ出て行った日。あの次の日、棗が家に来たんだ」
答えない代わりに別の話をゆっくりとし始めた。
「謝りに?」
「ううん。ただ、雑誌読んでただけ」
「・・・それだけ?」
「それだけ。棗がそうする時は決まって、何かあった時。小さい頃は喧嘩の後が多かったかな。黙って俺の隣にいるんだ」
「そうやって仲直りするの?」
「仲直り、というか自然にまぁいっかってなるかな。棗が謝れないの知ってるから」
「子供みたい・・・」
拗ねたような顔をする棗君を思い浮かべて小さく笑うと馨君も同じように微笑を浮かべた。
「ほんと。子供と変わらないよね」
その言葉には慈しむような思いが込められているような気がした。
棗君と馨君が過ごしてきた長い過去の分だけその思いを強く感じられるのかもしれない。