最悪だ、最低だ、有り得ない。

あんなこと言うつもりなかったのに、私は何てことを咲綺ちゃんに言ってしまったのか。


咲綺ちゃんを羨ましく思う気持ちは常にあったけど、

それを咲綺ちゃんを傷つける形で言葉にしてしまうなんて・・・。


咲綺ちゃんは咲綺ちゃん、と思っていたことが恥ずかしいと気付いたのに。

自分がダメなところを周りのせいにするのはやめようと思ったのに。

これじゃあ、何も変わっていない。


黒い渦のように私の頭を埋め尽くす嫌悪感は薄れること無くぐるぐると停滞し続ける。

その日受けたピアノのレッスンは過去最高とも言える酷い有様で、間違いようの無いミスを連発しては母に怒鳴られた。

だけど、その声ですら霞める程の酷い嫌悪感は一晩過ぎた後も続いていた。

寧ろ学校に近づくにつれて増しているようにも思えた。


「おはよー、ふたば!」

「え、お、おは・・・」


後ろから聞こえてきたのは聞きなれた良く通る明るい声。

反応が遅れ、振り向いた時には咲綺ちゃんは私の肩を叩いて通り過ぎ、その前の友達にも同じように振る舞っていた。


いつもと変わらない咲綺ちゃんを見て、昨日のことが単なる私の妄想に過ぎなかったのかと勘違いしそうになった。


一日ずっと咲綺ちゃんの態度は変わらず、放課後を迎え、これもいつものように「部活行こうよ」と誘って来た。

「うーん・・・」

やっぱり決断つかずに渋っていると咲綺ちゃんは「そっか」と肩を叩いた。

「行きたくなったらでいいよ。じゃあね」

あっさりと納得して教室を出て行った咲綺ちゃんを見て、私は虚しさを感じた。


自分が感じる虚しさに気付くと、都合がいいな、と苦笑を浮かべ、また更に嫌悪感の渦に巻き込まれていくしかなかった。