棗君との一件があってから、顔を合わせずらくて音楽準備室には近寄らなかった。
「今日も行かないのー?」
教科書や文房具を鞄の中に片づけていると、咲綺ちゃんは椅子に横座りになって両足をぶらぶらと揺らした。
咲綺ちゃんは毎日誘ってくれるのだが、必ずいるだろう棗君のことを考えると渋りたくなる。
「あの後、棗と何かあったんでしょ?何か言われた?あたしが言って来ようか?」
「い、いいの!大丈夫!」
立ち上がろうとした咲綺ちゃんを椅子に座り直させて、激しく首を振った。
咲綺ちゃんの方は馨君が追ってくれたおかげで宥められ、教頭に怒鳴り込むことはしなかったようだ。
あの場で咲綺ちゃんを宥めたりできるのは馨君しかいない。
もしも本当に馨君が部活を止めることになってしまったら、どうなってしまうのか。
軽音部は馨君がいるから絶妙なバランスがとれていたのに。
入部の浅い私でもそんなこと容易にわかる。
「咲綺ちゃんは棗君と喧嘩したのに、毎日部活に行ってるけどどんな会話してるの?」
「あ、やっぱり何か言われたんじゃん」
「言われた、というか・・・言った、というか・・・」
棗君とのやり取りを一部始終、咲綺ちゃんに話すと「言うねー」と面白そうに褒めた。
「私、こんなんじゃなかった・・・。腹が立ってもそれを口に出したりしたことなかったのに」
「どうして?」
「だって、私が我慢すれば穏便に済むことだし。関係がこじれたりするのって辛いよ。あー・・・、何であんなこと言っちゃったんだろ。よりにもよって棗君に・・・」
机に突っ伏して頭を抱え込んでいると、椅子を引きずる音が聞こえてきたので顔を上げた。
「後悔してるの?」
「・・・してる、かも」
「馨のことでムカついたことも、言わなきゃ良かったって思ってる?」
「そのせいで部活に行き難くなっちゃったし・・・」
言い終わる前に咲綺ちゃんからのでこぴんを食らった。
結構、痛い・・・。