何でよ。

何で、棗君が怒ってるのよ。

こんなことになったのは・・・

「・・・棗君のせいでしょ・・・」

「あ?」

思わず口を出た言葉を皮切りに、不満が抑えられなくなった。

空き缶を強く握り、その力を思いをぶつける糧にする。


「咲綺ちゃんが怒ったのも、馨君が心配して追いかけて行ったのも、全部、棗君のせいでしょ?馨君が辞めてもいいなんて、どうして平気な顔で言えるの?」


棗君は偉そうで自分勝手で、冷血そうに見えるけど、本当は仲間思い。

だから皆が慕って付いてくる。


どんな言い合いをしていたって、本当に人を傷つけるようなことは絶対言わないんだって、思ってた。


思ってたのに・・・。



馨君がどんなにドラムを叩くことが好きかなんて全然わかっていない。

軽音部を廃部にしない為に馨君はいつも皆に気を配っていたし、仲介役として支えてくれていた。


最低だ。

棗君はやっぱり自分勝手な冷血野郎だったんだ。


「何様だよ、お前?」

「何様なのはこっちのセリフなんだから」


棗君との睨み合い。

逃げ出したくなるけど、ここで目を逸らしたらダメだ。

泣きたくなる気持ちを必死で抑える為、空き缶を凹むほど握りしめる。



「チッ」

棗君は大きく舌打ちすると、空き缶を叩きつける様にゴミ箱に投げ入れ出て行った。


放心状態で視線を動かさないでいると、麻生さんが私の前にしゃがみ込んで視界を埋めた。

「大丈夫?」

我に返った私は、小さく開けた口から細く息を吐き出して徐々に呼吸方法を思い出したかのように息をして気持ちを落ち着かせた。

「正直、怖かったです・・・」

「棗君、高校生の眼力じゃないからね」

「ヤクザってあんな感じなのかな・・・」

「はは、ヤクザ?ヤクザも逃げるんじゃないかな」

「ほんとですか・・・?」

「ほんと。だから、良く頑張りました」

頭にふわりと乗った大きな手が私の涙を誘発させた。


怖かったけど、そんなんじゃない。


棗君は怖いけど、素直じゃないだけ。

感情を表に出すのが苦手で、不器用な人。


そうやって棗君を理解しかけていたのに、裏切られた。


勝手に期待していた私が馬鹿みたいで、笑える。



涙を流しながら漏れる声は笑い声ともつかぬ嗚咽へと変わった。