「ムカつく!あたし、学校行ってくる!」
「待てって。学校もう閉まってるから!」
飛び出そうとする咲綺ちゃんの手を掴み、馨君が冷静に宥めた。
「あたし絶対明日、教頭に言いに行くから!」
とりあえず椅子に座り直したが、興奮は冷め止まないようだ。
「やめろよ。お前が行くと面倒なことになる」
エアコンのおかげで息を吹き返した棗君は椅子の片隅で長い脚を組みながらオレンジジュースを優雅に飲んでいた。
「棗は黙ってる気!?」
大股で棗君に近づくと、棗君の鋭い眼差しが返ってきた。
私が直視できないあの目。
「騒ぐな、ボケッ。お前は手が出るから絶対行くな。謹慎増やしてどうする。不利な状況で突っこんでっても仕方ねぇだろが」
「じゃあ、その不利をもみ消す!」
「お前は感情で動きすぎなんだよ。現実的に考えろ。後は馨の判断だ。頭黒くすんのか、軽音部辞めんのか決めろ」
「ちょっと!馨が軽音部辞めてもいいって言うの!?」
「やめなよ、咲綺」
馨君が宥めに入ると、咲綺ちゃんは伸ばされた手を振り払い、棗君に尚も刃向う態度だ。
「馨がそう決めるなら止めねぇよ」
射抜くような鋭い視線は本気の度合いを示しているようで、私は大きな喪失感を与えられた。
「最っ低っ!!」
震える様に棗君を睨んでいた咲綺ちゃんは泣くのを必死に堪えているようにも見えた。
咲綺ちゃんは踵を返し、扉に体当たりしながら外に出て行ってしまった。
「ちょっ!?咲綺!!」
馨君は慌てて咲綺ちゃんを追いかけた。
私とすれ違い様、申し訳なさそうに右手を小さく挙げて出て行った。
あとよろしく。
そう解釈した私は棗君に向き直ったが、未だ眉根を寄せて床に穴を開けようとでもしているのか、鋭い眼力で睨み続けている。
気まずい・・・。
何度もジュースを口にし、紛らわそうとするが、何の気晴らしにもならない。
やがて飲み物が無くなると、空き缶を両手で弄びながら必死に言葉を探した。
「も、戻ってくるかなぁ・・・馨君」
「・・・知らねぇ」
低い声で短く呟く。
「連絡、とってみようか」
「余計なことすんな」