「バイト見つかっていきなり謹慎は厳しいけど、それが過ぎたら普通通りなんだよね?」

私が訊ねると、馨君がバツの悪そうな顔で頬を人差し指で掻いた。

「ごめん、ふたばちゃん。俺、軽音部は無期限停止処分なんだ・・・」

「はぁ!?意味わからんっ!」

咲綺ちゃんが立ち上がった瞬間に勢い余ってか持っていたアルミ缶から経こむ音がした。

その声に反応して、驚いた麻生さんがカウンター前で飲んでいた物を咽させていた。

「ほら、キレる。咲綺がキレるだろうと思って言い辛かったんだよ」

「キレるよ!」

「最後まで聞きなって。条件さえ満たせばすぐに解ける」

「何よ、条件って」

「黒くすること」

馨は自分の頭を指差した。

こちらも何と単純明快。そして、教頭の陰謀もあからさま過ぎて爽快感すらある。

「金髪をやめればいいらしいよ」

今までと変わらず単調に話す馨君とは打って変わり、咲綺ちゃんは顔を歪ませ拳を壁にぶつけ、怒りの丈を最大限表現していた。

「くそっ!見え見えなのよ!金髪のままだったら馨がいなくなって部員数足りずに軽音部を廃部に追いやれるし、黒く染めてくるならやっと校則守らせられるし、どっちにしろ教頭の思うままじゃん!」

「女子がくそ、とか言うなよ」

「腹立つんだよ、あの河童オヤジー!!」

教頭の頭頂部は非常に寂しいが、土星の輪っかのようにふさふさの髪の毛が頭頂部を避けるかのように囲んでいる。

万遍なく散ってくれてさえいれば、河童などという憐れなあだ名がつくことはなかったはずなのに。


「バイト関係ないじゃん、髪も部活も!弱み握ったからこの際こっちの条件飲ませようって魂胆に決まってる!そもそも、馨の金髪は軽音部以前の話だってのに!」

「そんな前から金髪なの?」

「そうだよ。あんな頭してたのに知られてなかったのもちょっとショック・・・」

「ごめん。私、あんまり校内事情知らなくて・・・」

友達がいなかったので、情報網がなかったし、休み時間は教室にいることが落ち着かなくて、すぐに図書室に駆け込んでいた。

チャイムが鳴ればすぐに帰って、学校にはギリギリで登校していたから、他のクラスとの接点は皆無に等しい。