宣言通り、馨君はスタジオで練習していたので自分達もその練習に混ざることにした。
一時間程練習してから、自動販売機で各々ジュースを買ってロビーのベンチに腰を下ろした。
「バレた経緯って何なの?」
咲綺ちゃんは炭酸で喉を存分に湿らせた後、威勢良く息を吐き出してそのままの流れで本題に入った。
電話の声と同様、馨君は特に落ち込んでいるわけでもなさそうで、淡々と話し始めた。
「運が悪いもんだよ。廊下で女子達が俺のバイト先のことで話してたら、たまたま近くにいた教頭に聞かれてたんだって。女子達がそう言って謝ってきた」
経緯は至ってシンプル。
教頭が軽音部に偏見を持っていることを考えると、常々軽音部のあら捜しをしていた可能性も捨てきれない。
「モテすぎるのも厄介ねー・・・」
馨君のモテぶりに関しては実際に見て納得したし、お喋りをしていた彼女達にも全く非が無い。
馨君が言うように単なる不運。
「まっ、バレるのは時間の問題だとは思ってたけども」
「何で?」
「だって、目立ち過ぎ。他校の友達でも馨のこと知ってる人いるんだから」
「この髪のせいかなー、やっぱ」
金色に染まった髪を指で引っ張り、苦笑いを浮かべた。
「そもそも、金髪で雇ってくれるってすごいと思うけど」
缶コーヒーに口を付けながら、私の質問に対して「あー、それね」と何だそんなことか、とでも言いたげに当たり前のように答えた。
「店長が女の人だったんだ」
や、やっぱり、そういうことだったんだ!!
言葉巧みに女性を操る術さえも習得済みで、店長を意のままに・・・。
「今良からぬこと、考えたでしょう?」
「え!?そ、そんなことないよ!!」
「だったら、汚らわしい物をみるような目で見るのやめてくれる?お二人さん」
隣を見ると、咲綺ちゃんは自分の体を抱きながら後ろの壁にぴったり背中をつけ、少しでも馨君との距離を保とうとしているようだった。
「勝手にドン引きしないでくれる?金髪はダメですか?って訊いただけ。そしたらいいわよ、似合ってるわって。理解ある店長だっただけにやめるのは心苦しい」
絶対にその店長は馨君に一目惚れしたんだ。
馨君が笑顔を一つ振りまけば、世の女性は揃って平伏すに違いない。