棗君はどうしてかご立腹だが、こんな状態にして帰って行った千尋さんを少し恨む。
棗君は私を一度睨み付け、スタジオに入って行った。舌打ちも後からおまけでついてきた。
何で、私!?
「姉さん、もう25なんだけど精神年齢は俺より下だと思うんだ。棗も短気だからすぐ喧嘩してこうなる」
やれやれ、と呆れたように苦笑しながら棗君が入って行ったスタジオと千尋さんが出て行った出口を交互に見て最後に溜息を漏らした。
「そろそろ二年経つ?」
「そうだね。良く続いてるよ」
「え!?付き合ってるの!?」
何気無く話す二人の会話から読み取ると、二人は「知らなかったけ?」とまるでそれが当たり前のことのように言う。
棗君が考えていることことと言えば、バンドのことくらいで、恋愛なんて興味がないんだと勝手に思っていた。
あんなに自分勝手ですぐに怒って、偉そうで、そんな棗君に彼女がいるわけないと心のどこかで思っていた。
「鬼じゃなかったんだね」
「はは、ふたばちゃん、ずっと棗のこと鬼だと思ってたの?間違えるのも無理ないけど、列記とした人の子だよ」
「二人が結婚したら馨君のお兄ちゃんになっちゃうんだね」
「うん、それが最近の悩み」
苦笑いする馨君を他所に、咲綺ちゃんは大笑いしながら棗君が防音壁の中にいることをいいことに盛大に貶した。
「あんな恐ろしい兄絶ー対嫌だなー、あたし」
棗君にも恋愛感情があったことには安心した。
怒りばかりが表に出るから本当に大丈夫なのかと心配していた。血圧とか将来的にしんどいだろうって。
でも、それと同時に切なくなった。
恋愛感情あるんだ、ふーん。
そんな程度だけど。