「──ところで」

 すれ違いざま、まゆみがふと立ち止まって俺に背中を向けたまま話しかけてきた。

「っと!?」

 上機嫌でカウンターに戻ろうとしていた俺は、なんだろうかと思いつつも彼女の前に周るわけでもなく同じように立ち止まる。

「四葉とってきて、ていってたわよね?」

 やはり背中を向けたまま話しかけてくるまゆみ。

 その声には特に抑揚はない。

 まるで「昨日は晴れだったよね?」と、天気の確認でもするかのような口ぶり。

 あまりにもなんでもないことのように話すもんだから一瞬なんの話なのかがわからなかったが、すぐに気付いて部屋にある四葉を思い浮かべる。

「あぁ、あれなら──」

 今頃カレ(カノジョ? まぁどちらでもいい)はぐっすりお休み中のはずだ。

 なんて話そうとした次の瞬間。

 まゆみは、

「あれ、もぅいいから」

 さらり、といった。

「は?」

 なにを突然いい出すのだろう、彼女は。

 この前のような気まぐれだろうか?

 あのときの恥じらいは特に意味はなかったのか?

 わざわざ見舞い客であった俺を引き止めてまで頼んできたってのに?

 真意をはかりかねてそれ以上なにもいえずにいる俺。