「1分でいい!」

「はい?」

 俺はひとさし指をまゆみに向けてずびしっ、と出す。

 もちろんもう片方の手は自分の目を隠すために使う。

 深呼吸をする間をはぶいて俺は一気にまくし立てた。

「今のは不可抗力であることは間違いなくてそれが神のいたずらだかなんだかってぇことはこのさい裏のゴミ箱にぶち込んでおいて、それよりも、あれだ、昨日のことなんだがあれは気の迷いで失敗で間違いだから気にしないでこれからも今までどおりの関係でいて欲しいって思ってるってぇことをおまえに伝えておこうと思ってだな。わかるか? わかるな? わかってくれ。いいか? あれは──間違いなんだ」


 しばしの沈黙。


 まゆみからの返答は、ない。

 俺もこれ以上いうことは、ない。

 幸いにもまゆみの背では届かない位置にかけられていた時計の秒針の音だけが、この部屋を静寂からかろうじて守ってくれていた。

 けれどもこの音が逆に時間経過を嫌でも感じさせて、俺の胃がキリキリ、とぜんまいのようにひねりあげられる。

 どのくらいたっただろうか。

 やけにだんまりなまゆみの様子が気になった俺は、たまらなくなって恐る恐る指のすきまから彼女を横目でうかがった。