事態は収集のつかない程に混沌としていた。

泣き叫ぶ美里に、

どうして良いか解らずオロオロと辺りを歩き回る葵。

心ここにあらずで愕然と震えるイフリート…。

それはある意味での地獄絵図…。

各々が個々に好き勝手しているこの事態を収集するのは

かなり骨が折れる作業になりそうだ…。


その様子を溜息混じりに眺めていたカリフが


「パンっ!パンっ!」


と手を叩く。

その音に個々の動きがピタリと止まった。

…この男…

さては、猛獣使いかっ!?


「はぁ~い♡

 皆さん注目~!」

その言葉に皆の視線がカリフに集まる。

「…では、

 今から今世紀最大のマジックショーをご覧にいれましょう♡」


「………パチパチパチ」

いとも簡単に洗脳された親子が拍手する…。


「では…葵さん!

 『イフリートの知ってそうな物』で

 今あなたが一番欲しい物を言って下さい♡」

「えっ…!?だから、恋する…」

言いかけた葵にカリフが笑顔で顔を寄せる。

「葵さん♡私は物解りの悪い方は嫌いですよ♡

 『イフリートの知ってそうな物』でお願いします♡」

「ひ、ひゃいっ!!」

無言の圧力に声が裏返ってしまう。

「う~~~んと、それじゃぁ、ビール??」

葵の返答に、始終笑顔を崩さなかったカリフの眉がピクピクと動く…。

「葵さん♡イフリートは1000年コーランに閉じ込められてたんですよ?

 そんな物、知るわけないでしょ?

 いい加減にして下さいっ!!!」

その剣幕は言葉に言い表せない程、怖かった…。


「ひ、ひゃ~~いっ!!

 じゃぁ、ナツメヤシの実、デーツ!!」

その言葉にニッコリ微笑むカリフ…。

一瞬見せた、あの形相はなんだったのだろう…。


デーツとは、ナツメヤシの実を乾燥させたものだ。

エジプトや、砂漠のあの辺りではポピュラーなおやつのようで、

古代エジプトの時代から食されて来たもののようだ。

昼間、アシュラフが「デーツはとても美味しい」と言っていて、

食いしん坊な葵は、いつかそのデーツを自分も食べてみたいと思っていたのだ。



「はい♡デーツですね!

 では…そこで悲観にくれている人!!」


どうやらイフリートの事らしい。

カリフはイフリートに手招きすると、こう続けた。

「さぁ、イフリート。

 あなたの魔力を使って、ここにデーツを出してみなさい」


イフリートは何か言いたげにカリフを睨みつけている…。

「…さぁ…」