「ふはははは!!何だっ!?お前、カリフではないのかっ!!

 俺が再び目覚める前に奴はご臨終かぁ!?くくくっ!!!こいつは傑作だっ!!」


高らかに笑い声を上げるイフリート…。


なるほど…

はたから見ていて、その姿はいかにも邪悪そうだ。


アシュラフは悔しそうな表情を浮かべ、葵に視線を移した。


「……葵ちゃん……あなたのせいですよ…。」


「…え??…」


唐突にそう言われ、心臓が跳ね上がる。



「…絶対に開いてはいけないと言ったのに……」



アシュラフの余りに険しい顔付きに

葵から冷や汗が幾筋も滴る…。


「…あなたの興味本意でイフリートは解放されてしまった…。

 イフリートの封印を解いたのは、そう、あなたですよっ!!!」



ひえぇぇぇぇぇーーーーーっ!!!



穏やかなアシュラフが、険しい顔付きで葵を睨む。



……でも…

…でも、でもっ!!



申し訳ないが……



葵には、何がそんなに悪い事なのか、理解出来ずにいた…。


確かに……


このイフリートと言う男、

頭が随分といかれているとは思う…


まぁ、仮に葵に摩訶不思議なファンタジーを受け入れる許容量があるとして…


このイカレタ男の解放が、何故そんなに悪い事なのか…?


葵は首を傾げる。


「ふふふ…」


イフリートがその邪悪の名に恥じぬような低い笑い声をあげた。


「カリフが居ない、という事は、もはや、俺に天敵は居ないという事だっ!!

 お前、カリフの子孫だな?この俺の長年の恨み、お前が受けるといいっ!!」



イフリートは唐突にそう叫ぶと、その場に立ち上がり

自らの腹の前で何かを包み込むような手の構えをすると

また、不思議な事を呟き出した。


「自然を司るイフリートの名において命ずる!!

 この者に、子々孫々解けぬ呪いをっ!!」


その呪いの言葉に呼応するようにイフリートの構えた手の内に

赤黒い球体が突如出現!!


イフリートの瞳が紅く輝き出す!!!


ありえない状況に一同の視線がイフリートに注がれるっ!!!


一体、これから何が起こるのかっ!?







「……ぽひゅぅっ…」





「………」

「………」

「………」



「………だから……なぁぜぇだぁぁぁぁーーーーっ!!!???」



一同の期待も虚しく、赤黒い球体は情けない音と共に

空気の一部と化してしまった…。


それが余りにも悔しかったのか、駄々をこねる子供のようにのたうちまわるイフリート…。


その時……



うつむいていたアシュラフの纏う雰囲気が明らかに変わった…。



「…葵さん。あなたにも責任の一旦はあるのですからね…」


片言の日本語だったアシュラフが、

流暢な日本語を紡ぎ出す…。


「私を恨まないで下さいよ…」


「え…??」


その横顔は、同じ顔付きなのに、

アシュラフとは思えない程、別人に見えた…。