「いや…あたしは別に何も…」


「嘘おっしゃい!あなたアシュラフのコーランを盗み見したんでしょう!?」


うぐ……

もう言い逃れは出来ない…。


「ご…ごめんなさい!つい出来心で…」


「あなたって娘はっ!!」



ひえっ!!殴られるっ!!

葵は固く目を瞑った!!


「おいっ!!女っ!!その娘は悪くないっ!!」


…えっ??

降りてくるはずの美里の鉄拳が降りて来ない?


意外や意外。

葵を庇ったのはイフリートだった。


「その娘はむしろ、良い仕事をした!

 なんせ俺を長い封印から解放してくれたのだからな!」


何故か得意気のイフリート。

そして、そのまま視線はアシュラフへ…。


「悪いのはこの男の方だっ!!

 俺をコーランなんぞに封印しやがって!!」


イフリートは今にもアシュラフに食いつきそうな勢いだ。


「アシュラフ、どうなの?」


美里が尋ねる。


アシュラフは美里の問いかけに少し困ったような顔をし

観念したのか、大きな溜息を一つついてから

ポツリポツリと話しだした。


「大変むかしのおはなしです。

 アシュラフのせんぞ、イスラムの聖職者でした…。

 砂漠にはとても悪いジンがいて、みんな大変困ってました…。」

 

何故か……


突然アシュラフの昔話が始まった…。


葵はもちろん、ぶっ飛んでいる美里ですら、その意図は掴めない。

その昔話と、このイフリートと名乗る男の謎、そしてコーランを開いてしまった事……


一体何の関係があるのか……。



アシュラフは険しい顔つきで話を続ける…。


「そこで、アシュラフのせんぞ、悪いジンこらしめるため、

 ある魔法をかけてそのコーランに封じ込めました。

 それが……」


アシュラフがイフリートを指差した。


「この、イフリートですっ!!」


……はい…??


アシュラフ何言っちゃってんの??


葵も美里も目が点になる。


そんな、なんともしれない異様な雰囲気の中で只一人、イフリートだけが

不敵な笑を浮かべていた…。