「すいませんっ!!ほんっとーにごめんなさいっ!!」



カリフの異変に身の危険を感じたイフリートは、即座に、

最近、黄金の国ジパングから伝わった『土下座』の姿勢をとった。



そもそも、このイフリート、本来このような性分ではない。

頭が良いのを鼻にかけ、ずる賢く、その美しい容姿と、

強力な魔力を傘に、巧みに自分の良いように人を操る。

そんなイフリートをこのようにさせるのは、相手が『カリフ』だからだ。


そう、『カリフ』は特別なのだ。



「今日という、今日は………許しませんよ??」


ニッコリと微笑んで見せるその美しい顔は


………もはや笑ってなどいない……。




「……………」



イフリートもつられ微笑むが、冷や汗が幾筋も流れ落ちる……。


頭の良いイフリートは知っていた。


『……調子に乗りすぎた………』


という事を…。


これは、尋常でない程、毎度『カリフ』に怒られて来た

イフリートだからこそ、解る事。




そして……




本当の『笑って切れる奴』の怖さを、今、身を持って体験する事となる……。



「私、何度も申し上げましたよね??」



うん、うん。


何度も頭を縦に振って見せるイフリートだが、



時すでにおそし……。



「解って頂けないなら、仕方ない……」



いかにも悲しみ深く、頭を左右に振る『カリフ』に、

食らいつくイフリート。


「解りましたぁっ!もぅ、心、入れ替えましたあぁっ!!」


「…とても、残念です…」




ーーー聞いちゃいねぇっーー!?




「そんな困ったあなたに……今日という今日は…お・し・お・き・です。」


そう言ってニッコリ微笑むカリフに悪い予感しかしない。


「は…い…!?」


『カリフ』は、満面の笑みを浮かべながら、

懐からコラーン(イスラムの聖典)を取り出した。



「『カリフ』の名において、アッラーに審判を託す……。

コーラン第72章、『ジン』の章!!」



カリフがそう唱えると、どこからともなく、激しい風が『カリフ』を包み込み、

ページをめくるでもなく、分厚いコーランは、『第72章』を指し示した。


激しい風は、分厚い雲と稲光を呼び、

煌びやかな酒池肉林と化していたイフリートの城は、瞬く間に、暗雲に覆われた。


「な…なんだ…!?何をするんだっ!?」


こ…これは只事ではないっ!!


たじろぐイフリートに、『カリフ』は無表情に告げる。


「アッラーは悪の化身、『イブリース』にも、審判の時を与えました。

 あなたも、その審判を受ける時です」


『カリフ』がそう告げると。

それに呼応して手元のコーランが蒼白く輝きだす。



「ふ…ざけんなよっ!?カリフっ!!」



これが、コーランの正統聖職階級、『カリフ』の力だ。



だから『カリフ』は特別であり、

イフリートはけして彼に逆らう事が出来ないのだ。