その日の夜半過ぎ……
「カチカチカチカチっ………」
「ぬうううううっ!!」
「カチカチカチカチっ!!!!」
「あぁ~っ!!ムカつくっ!!このド田舎っ!!
ネットが遅すぎて全然ストーリーが進まないっつーのっ!?」
無用にマウスを連打しすぎて、
PCはドS海賊王を画面に映したまま
完全にバグってしまっている。
「チッっ!!」
葵は、舌打ちしてマウスを放り投げベッドに転がった。
こういう時は妄想にふけるに限る。
目を閉じるとアシュラフに語って貰った
アラビアンな世界が葵の前に広がる。
遥か遠くの砂漠の国の王子様……。
エキゾチックで惚れ惚れするような容姿の持ち主……。
この異国の地で二人は出会い、許されぬ恋に落ちるのだっ!!
「やん♡王子いけませんわ♡」
……妄想は留まる事を知らない。
この妄想力こそが彼女の唯一の特技なのだ。
そしてそのたくましい妄想力は
ベッドに転がっていた抱き枕を
即座に砂漠の国のエキゾチックな王子に早変わりさせた。
「王子~~~♡」
妄想はピークを迎え……
「ドタンっ!!」
という痛々しい騒音と共に現実に引き戻される。
「イタタタ……」
無残にも妄想のピークで
ベッドから転がり落ちた葵は
打ち付けた腰をさすりながら呟いた。
「アホらし……。水でも飲もう…」