私が歩くと聞こえてくるのは悪口という名の雑音。
「ねぇねぇ、あの子でしょ?」
「あ、ほんとだ。いじめられてる子とか困ってる子とか助けてるんでしょ」
「いつもお団子頭でヒーローぶってるって噂だよ」
「うわ、ヒーロー気取り?なにそれ、ウケるんだけど!」
「お金に困ってたりしたら助けてくれるのかな〜?」
「あ、確かに!今度言ってみようかな〜」
お金に困ってるなら強盗でも万引きでもすれば?
まぁそんなことやったら人生が終わると思うけど。
ヒーロー気取りより私はあなた達のその濃い化粧の方がウケるんですけど。
なんて思いながら、彼女達に見向きもせずに廊下を歩く。
彼女達が目印としているのは頭の上にあるお団子。
毎日この髪型。
変わることはないし、変えることもない。
これが"私"だから。
そんな私は周りの生徒からヒーローぶってる"だんご虫"って言われてる。
呼びたければ呼べばいい。
私は別になんとも思わないし、傷つかない。
だって困ってる人を助けるのは"約束"だから。
約束を守れるのなら私は何を言われたってかまわない。
早足で歩いていると背後から駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
あ、これは。
この足音は。
「すももお〜!!」
後ろから急に飛びつかれた。
予想以上の衝撃に前のめりになる。
その拍子に前にいた誰かの背中に顔がぶつかってしまった。
前にいた人は後ろから感じた衝撃に歩いていた足を止めた。
「…ごめんなさい」
私は鼻を押さえながら謝った。
その人はゆっくりと私の方に振り返った。
その人を見上げた瞬間、私は目を丸くした。
モカ色の綺麗に整った髪。
目も綺麗な二重で、スッと鼻もかなり高くて小さい。
周りに女子生徒を引き連れている。
その周りの女子生徒も美人な人から化粧で美人に見せている人と様々いる。
私は瞬時にこれが俗に言うイケメンというやつかと理解する。
私を見た瞬間、その人は満面の笑みを浮かべた。
その上辺だけの笑顔に私はすぐに興味を失った。
「こっちこそごめんね?痛かったでしょ、大丈夫?」
そんなことを言いながら私が押さえてる鼻に手を伸ばしてきた。
触れられたくなくて私は軽く身を引いてかわす。
「いえ、これくらい慣れていますので」
周りの女子生徒の視線が痛い。
早く立ち去りたかった。
こういう人には関わりたくない。
どんな女子にも愛想振りまいて自分はモテ男だと思い込んでるチャラ男。
しかもその愛想は上辺だけだと思うとなお腹が立つ。
こういう軽い男は大嫌い。
私は"触らないで、あなたみたいな人は嫌いなので。"と訴えかけるように軽く睨むようにその人を見て、さっき歩いてきた廊下を引き返した。
「す、李待ってよ~!!」
私の後からついてくるのは、この最悪の現状を作った原因の張本人。
彼女、綾女(あやめ)とは中学から一緒の親友。
ゆるく巻かれた黒髪に、クリッとした二重の目。
そして、豊満な乳。
それは私に対する嫌みかと思うくらいに揺れる。
私には縁の無い揺れ。
「…待ってって、ぶつかったの綾女のせいだからね。人様に迷惑かけないでよ」
私の隣に並んだ綾女を横目で見た。
綾女は反省しているのか肩を落としてごめん〜と謝ってきた。
それがまた可愛くて。
本人には可愛いなんて言わないけど。