「う、煩い!!翔輝様、そいつは汚ない人間です…翔輝様に触れていいような人間ではありません。」
琴音…。
私はわかるの。
貴女がなんでそんなに翔輝に執着するのか。
貴女は…
肩書きが欲しいんでしょ?
東屋組若頭東屋翔輝の妻
っていう。
『翔輝はモノじゃない……。』
あ、喋っちゃった。
翔輝に禁止されてたのに。
「華音…いいぞ。」
翔輝からの許可が出た。
じゃあ遠慮なく。
『翔輝はモノではない。人間です。
貴女は肩書きが欲しいんでしょ?だったらなおさらあげれない。
私は幼い頃から“いらない子”として認識されてきた。
私のことを視界にもいれようとしない母親に仕事ばっかで母親からの話をすべて鵜呑みにしてきた父親。私の大切なものをすべて奪っていく妹。
世界がすべて汚く見えた。
私は“無”になった。
その私に“色”をくれたのが翔輝。』
私の大切な人。
やっと…
やっと幸せになれるの。
邪魔しないでよ…。
「華音っ!!」
意識を失う前に聞いたのは私の名前を呼ぶ焦った翔輝の声だった。
ーーーーーーーーーー
年が明けてもう3ヶ月。
華音…
頼むから目を覚ませよ…。
真っ白な部屋でまるで眠り姫のように眠る華音。
華音の敵はもういないから。
いないから。
戻ってこいよ。
「翔輝…少しは寝ろ。」
後ろから琉聖の声がした。
「俺が撃たれた時は華音がこんな気持ちだったのかよ…」
「翔輝っ!!頼むから…華音ちゃんは大丈夫だから。」
わかってるよ。
去年の12月28日。
紅の蝶をあしらった着物から染み出てくる真っ赤な血。
スローモーションのように時間が進んでいた。
顔を歪め倒れていく華音の後ろに見えたのは血走った目をした華音の父親の姿。
なんでだよ。
次々出てくる華音の血を見ながら俺は指示をだした。
須藤一家は組員に取り押さえられ父親は警察に母親と妹は東屋組の地下に。
俺は華音を抱え琉聖の運転で東屋組専用の病院に向かった。
命は取り止めたもののあれから3ヶ月もたったにも関わらず目を覚まさない華音。
「翔輝、華音ちゃんが起きたときにそんな姿の翔輝だと振られるよ。」
姉貴…。
「華音さんは大丈夫ですよ。若。」
いつしか俺を若と呼ぶようになった拓哉。
「……ここで寝る。」
俺は華音の手を握りそのまま意識を手放した。