「はい、じゃぁ。ごゆっくり♪」
「いってらっしゃい、金の龍と紅の蝶。」
笑顔で送り出してくれた壱帆さんと拓哉さん。
『いってきます。』
壱帆さんに一礼して私と翔輝は街に踏み出した。
真冬の冷たい風も翔輝がいるから温かく感じた。
「寒くないか?」
翔輝が繋がった手をコートのポケットにいれた。
『大丈夫だよ。』
街の人は自然に私たちが歩く道をあける。
そんなことしなくていいのにと少し苦笑いが漏れる。
『翔輝…』
「どうした?」
言おっかな…。
言っちゃおっかな…。
『あ、あのさ…』
「ん?」
『け、ケーキ…食べたいな…。』
…………
「……フッ…そうか。よし、じゃあケーキ買って帰るか。」
『っ!!うん♪』
翔輝は優しく私の頭をトントンと叩き微笑んだ。
1度もケーキを食べたことない私。
私には誕生日もクリスマスもなかった。
見たことはある。
琴音の誕生日とクリスマスのときに。
洋館に閉じ込められる前の話だけど…。
まだ4人家族だったころ…
正確には3人と1人家族だったころ。
すべては琴音中心だった。
いつからだろうか。
昔のことすぎて思い出せない。
……?
いきなり翔輝の足が止まった。
『翔輝…?』
「あ、見つけたっ♪私の婚約者様~!」
……え?
なんで…?
なんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんで…琴音…。
身体が震え上手く呼吸ができない。
漆黒の髪に漆黒の瞳。
後ろには…
あの人と…
お父さん…っ?