本当だろうか、気を遣ってくれているのではないか。

「ごめん、俺の物音で起こした?」

「ううん。考えごとしてたら眠れなくて、ずっと起きてたの」

「そっか…」

緩やかな海風が吹いて、ふわりと肌を撫でる。

自分にとっては他愛もない微風(そよかぜ)だが、陸の傷に障らないかと心配になった。

「晴、考えごとって?」

「あ…あの……」

陸のことや春雷の国のことを考えていたとは、何となく言いづらくて口籠った。

「…俺の話、聞いて後悔してるとか、ない?」

「そっ、そんなことないよ!ただ少し、びっくりはしたけど…」

「良かった。自分で言うのもなんだけどさ…俺の話、ちょっと変な話だしさ。慶夜が俺を追ってきた一件があって漸く、信じて貰えるかなってくらい。でもさ…俺にはこの四年間を過ごした記憶しか、確かなものが何もないんだ」

…自分の出自に関することが全く分からない、という状況はどれ程不安なことなのだろう。

陸がいつも寂しそうに笑うのは、そんな孤独や不安を秘めているからなのか。

「…けど、天地先生が言ってたじゃない?陸は春雷の出身かも知れないって。春雷には先生たちみたいに、陸のこと探してる人がいるのかも知れないよ」

逸る晴海の心と言葉とは裏腹に、陸は浮かない表情でうん、と頷くだけだった。

「…陸?」

「家族…故郷…そんなものが、俺にも存在するのかな」