「!じゃあその人は、息子さんのために月虹に残って…」

「うん。でも…だったらどうして彼は自分と息子じゃなく、俺のことを逃がしたんだろう…」

陸はその人のことを相当慕っていたのか、苦々しげにそう呟いた。

「…君自身にその心当たりはないのかい?」

天地の問いにも陸は伏し目がちに首を振った。

「……彼の役割が俺の能力の管理だったことくらいしか解らない。国に家族を残してきたって言ってたから、きっとあの人だって逃げたかった筈なのに…」

陸の視線がふと、こちらを向いた。

「…?」

「俺を逃がしたせいで、彼がどうなったか…酷い目に遭わされたりしてないか凄く心配なんだ。あの人は…」

「――陸くん、そろそろ終わりにしようか。今日は色々あったから疲れてるだろう?」

陸の顔色が優れないのを懸念してか、天地は唐突に話を打ち切った。

「えっ…あ、いや俺は……」

「少し性急に話を進め過ぎたよ。一度ゆっくり休もう」

「有難う、ございます…けど今の俺に出来ることなんて、月虹のことを話すことくらいだけなのに…」

陸が少し遠慮したように夕夏はひらひらと片手を振りながら続けた。

「それだけで十分だよ。もし何か困ったことがあれば協力するから言って?また月虹から追手が現れたら、私たちが君を守るし。能力者としては君よりずっと格下だけど、体術ならそれなりに使えるから」

「君のお陰で、弟の行方がやっと判ったんだからな…今度は俺たちが君に協力するよ」

「で、でもそんな…」