「それじゃあ先生、春雷に行けば何とかなるんですか?」

「その魔法を解けるくらい高位の精霊を喚べる霊媒師となると、かなり限定はされるけどね。それに陸くんは、多分その春雷出身じゃないかな」

「えっ?!」

ふと陸の故郷のことを言及され、思わず本人よりも驚きの声を上げてしまった。

「陸くんの眼や髪の色は、春雷の風使い特有の色彩なんだよ。今は純血の風使い自体が殆どいないから、晴海ちゃんくらいの年頃だと知らなくても無理はないけど」

「……俺の、出身…」

陸は少し落ち着かない様子で、何かを思い返したかのようにぽつりと呟いた。

「陸、どうしたの?」

「月虹から逃げるときに言われたことを思い出したんだ。君が本来いるべき場所に帰るんだ、って」

陸の、いるべき場所――

「…そういえば君は、どうやって月虹を脱出したの?その話だと、誰か協力してくれた人がいるみたいじゃない」

「うん…そうなんだ。その人は月虹の職員だけど、とても優しい人で…記憶のない俺に良く色々なことを教えてくれたんだ。その彼がある日、俺に月虹から逃げるよう手引きしてくれたんだよ」

「…そうか。彼が行動してくれたお陰で、俺たちはやっと月虹の存在を知れた訳だな」

「私たちも薄暮に行ったことは何度かあるけど、複数の能力者が集まった気配のする施設なんて見付けられなかったものね…」

「俺も、月虹の詳しい位置とかについては分からないんだ。とにかく遠くに逃げたい、とだけ念じて転移魔法を使えって言われた通りにしたら、薄暮の街の外らしい場所に飛ばされてたから…」

「その人は、君と一緒に逃げなかったのかい?」

天地からの問いに、陸は落ち込むように俯いた。

「…俺は促されるまま月虹から逃げる気になってたから、彼も当然一緒に逃げるものだと思ってた。けどあの人は…月虹の能力者の中には、息子がいるからって…」