「…天地先生の言う通り、これはただの傷じゃない。俺が月虹から逃げるとき…自分で付けた傷だ」

「…、……え?」

驚愕の余り眼を見開くと、ぽつりと陸がごめん、と小さく呟いた。

その謝罪は、果たして何に対する言葉だろう――

「じ、自分で…?どうして、そんなこと…」

夕夏も、当惑した様子で陸に問い掛けた。

傷の状態を詳しく知っているらしい天地と賢夜は気付いていたのか、黙ったまま陸の様子を窺っている。

「月虹に属する能力者たちには、全員左腕にそれと判る刺青を入れられてるんだ。そして、その刺青には“制約”の魔法が掛かってる」

「制約?」

「月虹が取り決めた規制に反した対象者の霊力や魔力、体力を消耗させる仕組みなんだ。俺の場合、月虹から逃げた瞬間に発動した」

「やっぱり、寄生型の闇魔法か。あれはとても厄介なんだよ…君が能力を使えなくなったのはそれに力を吸い尽くされたせいだね」

「合理的ではあるかも知れないが…悪趣味だな」

表情を曇らせた天地に続いて、賢夜が不機嫌そうに眉根を寄せた。

ということは、陸は慶夜に反撃をしたとき完全に力を使い果たしてしまったのか。

そんな極限の状況下で相手を追い返す程の能力を発揮出来るとは、慶夜も予想外だったようだが。

「…月虹を離れて、次第に増してくる痛みと疲労感に耐え兼ねて…その苦しみから逃れたい一心で、俺は刺青ごと左腕を引き裂いたんだ」

「っ…!」

思わずびくりと身を竦めると、陸の掌が指先に触れた。