だがその願いとは裏腹に、秦はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

するとこちらよりも遥かに上背の秦は、晴海の肩越しに青年の姿を見付けたようだった。

「…誰だ、そいつは」

秦は愉しげな声色から一変して、探るような低い声を上げる。

(気付かれた…っ)

「見かけない野郎だな、他所者か」

早速青年に掴み掛かろうとしたその手を、慌てて払い除ける。

「やめて!酷い怪我なの、早く助けなきゃ…」

秦はその行為が気に食わなかったのか、不機嫌そうに眉を顰(ひそ)めて舌打ちした。

「そんな死に掛け、放っておけば勝手にくたばるだろ。こっちに来い!」

「痛っ…!」

腕を強引に掴まれ、よろけるように秦の傍へと引き寄せられる。

その瞬間、項垂れていた青年が弾かれたように顔を上げた。

「…ふん」

青年を冷たく一瞥した秦に、両手首を青年と反対側の壁際に押さえ付けられる。

「秦っ、急に何…っ?!」

秦がこんな強引な手段を取ったのは、初めてだった。

今までは人の目があったためか、こちらがどんな態度を取ろうとこんなに苛立った様子は見せなかったのに。