ある程度力の強い能力者というものは、他の能力者の気配を感じ取ることが出来るらしい。

慶夜が現れる直前に陸の様子が変わったのも、彼の気配を感じ取ったためのようだ。

「君が慶夜と戦っている間は、弱々しいながらも君の気配を感じ取れた。けど今の君は…非能力者同然だ」

「…それは」

陸が口を開き掛けた瞬間、他者の声が割って入った。

「――それは左腕の傷のせいじゃないかな?陸くん」

「!天地先生…」

声の主は、今しがた午後の診察時間を終えたらしい天地だった。

「暁…」

顔色の悪かった夕夏が、彼の姿を見て安堵の表情を浮かべる。

天地もそれを理解しているように、その傍らに歩み寄って彼女の頭を撫でた。

「暁、どういうことだ?確か手当てのときも妙に腕の傷を気にして……そういえば慶夜も傷があるのを知ってたみたいだな」

「最初に傷を診たときから、色々気になってたんだ。その日以来、君の能力は次第に弱ってるみたいだし。どうかな、当たってるかい?」

天地ににっこりと笑い掛けられ、陸は左腕の傷の辺りにそっと触れた。

「…陸」

小さく名前を呼ぶと、陸は少し申し訳なさそうにこちらを振り向いた。

『どうしてこんな酷い怪我したの?』

そう訊ねたときには逸らされてしまった紅い眼が、今度は逃げずにこちらを見つめている。