「…月虹の連中は、能力者たちの力を新しい侵略の道具として利用するつもりなんだ。そのために邪魔な記憶を消したんだと思う」

「侵略の、道具…」

夕夏は不意に自分の身体を掻き抱いて俯いた。

その肩は小さく震えている。

陸は少し戸惑いつつも、更に言葉を続けた。

「…それから、慶夜の変貌については……月虹の人間が施した洗脳が原因だ」

「……洗脳?」

宥めるように姉の背を撫でてやっていた賢夜が、ぴたりと静止した。

「いくら教育し直しても、生来の性格が温厚だと侵略に向かないと考えたのか……連中は彼らを“月虹のためなら手段を選ばない”性格になるよう洗脳したんだ。俺も、慶夜が当初は温厚な性格だったのを覚えてる」

「…!!」

「特に慶夜は、本当に争い事を嫌う優しい性格だったからか…なかなか受け付けなくて他の子供よりも強力な洗脳を受けたみたいなんだ」

陸はもしや――それを知っていたから、慶夜にあまり反撃出来なかったのだろうか。

「…しかし陸、君はその洗脳を受けてないようだが、それは何故だ?」

「俺を含めた何人かは、洗脳を受けていないんだ。何が基準なのか俺にも良く解らないけど…」

「君は月虹にとって重要な何か…特別な力を持ってるってことじゃないのか?事実、慶夜に反撃したときの君は強かった。でも、今の君は…」

賢夜は何か言い掛けたが、唐突に言葉を切った。

だが陸はその続きを察してか苦笑しながらゆっくりと頷く。

「今の俺からは、能力者の気配がしない?」