陸は一瞬だけびくりと身を震わせると、少し慎重に頷いた。

「…子供たちはみんな各々違う属性の、強い力を持った能力者だ。俺や慶夜の他に、あと六要素の能力者がいる」

「慶夜や、他の子も君と同じように記憶を失ってるの?」

「何人か例外もいるみたいだけど、殆どは…慶夜も同じだよ。彼から、故郷や家族の話題は一度も聞いたことがない」

夕夏は納得しつつも、若干落胆したような複雑そうな表情で項垂れた。

「…強力な力を持つ子供を、各地から集めた奴等がいる訳か。君も弟も、その連中に攫われたと見て良さそうだな」

「でも、誰が何のためにそんなことを…」

「…あの場所が何のためのものなのか、俺がそれを知ったのはつい最近…其処から逃げる直前だ」

夕夏の問いに陸は一呼吸置いて、絞り出すように言葉を続けた。

「――彼処は、薄暮の国が極秘に造った能力を扱う兵器開発施設『月虹(げっこう)』。 設立者は…薄暮の領主だ」

その瞬間、夕夏と賢夜の表情が凍り付く。

「なんだって…?!」

「っ…薄暮の領主は、炎夏や樹果のような小国を占有した程度じゃ飽き足らないのか…!」

賢夜が珍しく感情的に、嫌悪感を露にして吐き捨てた。

炎夏・樹果の両国は十数年前に薄暮の国が起こした戦争に敗れ、以来同盟という名の支配下に置かれている。

――後に天地から聞いた話だが、夕夏たちはこの戦争で実の両親を失ったらしい。

「待って…その月虹に集められた子供たちは、まさか……」

薄暮の国への悪感情の表れか、夕夏は気分が悪そうに口元を押さえた。