「…あの焔は、外部からの干渉を遮断する結界だよ。外側からの侵入は勿論、中の様子は視覚や聴覚からも外れる。慶夜は俺以外の人間を結界の外に弾き出したつもりだったけど…晴は俺の傍にいたから、内側に取り残されたんだ」

「じゃあ、あのときの様子は外側にいた人には見えなかったの?でも夕夏さんたちは私たちが見えたって…」

すると今まで押し黙っていた夕夏がああ、と口を開いた。

「それは私たちにも明確な根拠はないけど…慶夜と同じ焔の能力者だから――或いは結界を張った慶夜の肉親だから、じゃないかな」

夕夏の説明に、賢夜も頷いた。

「俺たちの能力は慶夜に比べると余り強くない。結界を張るのもその内部に干渉するのも、本来はもっと格上の能力者にしか出来ない筈だ」

夕夏はくるりとこちらに向き直ると、やけに明るく笑いながら手招きした。

「さて。じゃあ立ち話もなんだし、二人共こっちにおいで」

夕夏は部屋の奥に置かれた長椅子に座るよう二人を促すと、賢夜と共に卓を挟んで向かい側の椅子に腰を下ろした。

「まずは陸、話をしてくれる気になってくれて有難う。晴海から、君に話を聞くのは難しいかもって聞いてたから少し不安だったんだ」

「俺のほうこそ…貴女たちがいなかったら今頃、命はなかった。有難う」

夕夏は笑顔のままどういたしまして、と返してからすっと表情を切り替えた。

「…早速だけど、本題に入ろうか」

夕夏にじっと見据えられ、陸はゆっくり頷いた。

「君は、どうして慶夜のことを知っているの?慶夜が結界まで張って、君に攻撃を仕掛けてきたのは何故?君は一体――…誰?」

矢継ぎ早に質問を浴びせられ、陸は少し迷ったように眼を泳がせる。

咄嗟に陸の袖口をそっと引くと、小さく大丈夫、と囁かれた。

「……俺は、自分が誰なのか知らない」