秦は親の権力を盾に街を我が物顔で歩き、気に食わないことは暴力で捩じ伏せる。

そのため彼と無用な諍(いさか)いを起こさぬよう、この街では彼の言いなりになっている者も多い。

だが、晴海はその傍若無人な立ち振舞いに屈するのが堪らなく嫌だった。

それ故に秦と対面しても慇懃無礼な態度を取り続けていたため、今に目を付けられるだろうと覚悟はしていたのだが。

その態度が何故か逆に気に入られてしまったらしく、秦に見付かると必ず言い寄られるようになっていた。

最近は特にその頻度が酷く、行く先々には必ず現れる気がする。

…別の意味で目をつけられた、と言っていいのかも知れない。

「お願い、私に構わないで」

普段は人目の多いところで絡まれるので適当にあしらってすぐ逃げるのだが、今は人気もなく怪我をした青年がいる。

置いて逃げる訳にはいかないし、青年を連れて逃げ果(おお)せる自信もない。

「相変わらずつれないな、この街で俺を拒む女はお前くらいだぜ?」

「っ…!」

晴海は咄嗟に、秦の視界から青年を隠すように立ち上がった。

青年は容貌からすると、明らかに他国の人間だろう。

他所者嫌いの秦のことだ――見付かったら彼に何をするか解らない。

「私以外の女の子なら、貴方が声を掛ければいくらでも思い通りになるんでしょ?」

どうか、すぐに去って欲しい、と心の中で祈る。

「すぐ思い通りになる女なんかつまんねえよ。俺は、お前みたいなのが好みなんでね」