突然青年が声を荒げ、驚いた晴海は反射的に手を引いた。

「駄目だ…!俺に、関わらないでくれっ…俺は大丈夫だから」

「そん、な」

青年の威嚇するような鋭い視線に、必死で絞り出した声が上擦る。

予想外だった青年の怒声に動揺して、心臓が早鐘を打つ。

「そんなこと言ったって貴方、このままじゃ…」

大怪我を負っている青年を、放っておけない。

放って行ける筈がない。

こんな冷たい雨にこのまま晒されていたら、死んでしまう。

「ひどい怪我、してるのに」

慄(おのの)きながらも食い下がる晴海に、青年は懇願するようにかぶりを振った。

「いいから…行って…っ」

「でもっ」

「――よう、晴海。こんなとこで何やってる?」

「!」

突如掛けられた声に振り返ると、そこにはいつの間にか黒髪の男が立っていた。

「秦…!」

この国の領主の息子である朱浜 秦(あけはま しん)だ。