そのことに接点を見出せず、未だ警戒心を解けない晴海に対し夕夏は少々困ったように溜め息を吐き出した。

「…私には二人、弟がいるんだ。だけど下の弟が四年前、突然行方不明になってね。だから弟を探すために上の弟を連れて炎夏を出たんだよ」

「行方、不明…」

「弟の名前は――慶夜」

「!!」

その名を耳にした瞬間、反射的にびくんと身震いした。

「彼が、貴女の…弟!?」

こちらの反応を見て、夕夏は確信した様子で頷いた。

「…やっぱり、君は弟に逢ったんだね」

あのとき自分に向けられた、慶夜の殺意に満ちた眼差しを思い出す。

その記憶だけでなく恐怖心までもが鮮明に甦り、身体が無意識の内に震えていた。

「…ごめん。君を怖がらせるつもりはなかったんだ」

それを見た夕夏は、申し訳なさそうに俯いた。

夕夏の顔を見たとき誰かに似ていると感じたのは、慶夜だったのか――

それにすぐ気付けなかったのは、夕夏の穏やかな瞳と慶夜の冷たい瞳とで、受ける印象が全く違ったせいだろうか。

しかし、慶夜の姉ということは。

「陸は彼を…慶夜を知ってるみたいだった。じゃあ、貴女のことも…?」

「いや、私が彼を知らなかったように彼も私を知らない筈だよ。なのに彼と慶夜は、 お互いを知ってるように見えた。二人の様子は遠巻きに見守ることしか出来なかったから、飽くまで推測だけど…」