「…君たちのいた広場は火の手に囲まれて、なかなか近寄れなかったんだ。けど急に降ってきた雨のお陰で鎮火して、やっと君たちを助け出せた」

先程、天地と言葉を交わしていた女性が壁に凭れながら口を開いた。

「…貴女が、私たちを此処まで…?でも、どうして……」

「役人たちに先に見付かると後で色々面倒かと思ってね。特にあの銀髪の彼は目立つし、手遅れになったら大変だもの」

「!…陸を、知ってるの?」

陸の名が出て来た瞬間、思わずまた寝台から飛び起きてしまった。

その様子に、傍らに立つ天地は無言のまま苦笑する。

「いいや、君たちのことは暁から少し聞いた程度だよ。まあ…彼が目を覚ましたら、色々と訊きたいことはあるけど」

その言葉に、晴海は無意識の間に彼女を警戒していた。

「陸、に?貴女は、一体…」

陸のことを知っているらしいあの慶夜という男は、陸に友好的とは言い難かった。

陸のことを知らないと言うが話を訊きたいと言う彼女は、窮地こそ救ってくれたとはいえ陸を危険な目に合わせやしないだろうか。

「…ごめん。こっちのこと、何も話してなかったね」

こちらが身構えていることに気が付いた相手は、苦笑しつつ両手をひらひらと振った。

「私は、夕夏(ゆうか)。暁とは一応父親と娘の関係」

「…天地先生、の?」

天地はまだ三十前の筈だ。

夕夏と名乗った彼女は、背は晴海よりも小柄のようだが年齢は同じくらいか、少し歳上に見える。