「ち…ご丁寧に結界まで張ってたのか」

その薄い水の膜が、陸の身を爆風から守ってくれたらしい。

「成程な、流石は最強の能力者と評されるだけある……今の俺には勝ち目はなさそうだ」

慶夜が皮肉げにそう吐き捨てると、陸は不快げに顔を顰(しか)めた。

「これで解っただろ、慶夜。奴らにも伝えておけ…!俺にもう戻る意志はないってな」

「…今のうちに精々、吼えておけ」

恨めしげに陸を見つめる慶夜の足元に、小さな焔が灯る。

焔は慶夜の足元に円を描いた瞬間、ぼうっと燃え上がり慶夜の姿を包み込んだ。

「っ!?」

その光景に目を見開いたが、陸は動揺もせずその様子をじっと見つめている。

焔はすぐに燃え尽きたが、慶夜の姿もこの焔と共に消え去っていた。

「消え…た…」

唖然とする晴海に、陸は足を引き摺りながら歩み寄る。

「…は、る」

「!りくっ…」

だがやはり思うように足が動かせないのか、陸はふらりとぐらついた弾みでそのまま倒れ込んでしまった。

その途端、降り続けていた雨粒は降り止み氷柱も砕け散って空気に溶けた。

「陸っ!大丈夫…っ」