「…だったらこれ以上、悪足掻きするは止せ。まあ、今のお前にはさっきの微風(そよかぜ)を出すだけでも精一杯だろうがな」

「言った筈だっ…!俺は戻るつもりはない、その子にこれ以上手出しもさせない…!!」

陸は両手を目の前に伸ばすと、ゆっくりと深呼吸した。

「何をする気だ…?お前にはもう俺に抵抗するだけの力は残ってない筈だぞ」

(陸にはもう、力が残ってない…?)

慶夜の言葉に晴海はびくんと戦慄したが、陸は小さく首を振った。

「大丈夫だ…俺はまだ、戦える」

自分に言い聞かせるように呟いた陸の掌から、青白い光が迸る。

その光を目にした慶夜は、咄嗟に身構えた。

「なっ」

その冷たい色の光が放つ気配は、まるで流水のようだ。

「まさか…!水の精霊を喚んだのか?!」

驚愕した慶夜が、苦々しげに呟いた。

焔と相反する、水の力が、陸の掌から湧水のように満ち溢れている。

「水の、精霊…?」

慶夜の言葉に、ある疑問が浮かぶ。

能力者が喚び出せるのは、自身の持つ属性と同じ要素の精霊だけだと陸は言っていた。

陸は水ではなく風の能力者なのに、何故――