「どうした、逃げないのか?」

「…ぁっ…」

白く煌めく焔を纏った慶夜の掌が、今度はこちらに向けられている。

「だったら、消し飛べ」

慶夜が冷徹に言い放った、そのとき。

ざわり、と微かに空気が震えた。

「やめろぉぉっ!!」

陸の叫び声に呼応するように、慶夜の身体が旋風(つむじかぜ)に囲まれる。

(風…!!陸の…?!)

「ちっ…!」

慶夜は少々驚いたように目を見開いたが、小さく舌打ちをすると自身を取り囲む風を薙ぐように両腕を振り払った。

すると慶夜の姿が今度は真っ赤な焔に包まれたかと思うと、旋風は逆回りに巻き起こった焔の渦に内側から圧し出され、相殺される形で立ち消えた。

「驚いたな、まだこんな力が残ってたのか」

消え去った焔の向こうから、殆ど無傷の慶夜が現れた。

慶夜が振り向いた視線の先で、陸は苦しげに息をつきながらこちらを見据えている。

「慶夜!お前は俺を連れ戻しに来たんだろう…!なら俺以外の人間に危害を加えるな!!」

陸はよろめきながらも、もう一度ゆっくりと立ち上がった。

両脚に力を込めると火傷が痛むのだろう、その表情が苦痛に歪む。