「――もうっ…あのおじさん、いつも調子が乗ってくると一人で盛り上がっちゃうんだから」

あの後も延々と続く長話を何とか切り上げさせて店から出ると、今度は晴海が肩を落として盛大に溜め息をついた。

「でも面白い人だったね」

少し…いや、かなりあの勢いに押され気味ではあったが、陸は珍しく楽しげに笑っていた。

「まあね…話が長引くと、よく本来の目的を忘れて帰りそうになっちゃうんだけど」

気さくでいい人だよ、と付け加えておく。

「晴、街の人たちと仲がいいんだね」

「…そう?」

思いも寄らなかった言葉を掛けられ目を瞬くと、陸は何故否定されたのかと言わんばかりの不思議そうな表情で言葉を続けた。

「うん。そう見えたよ?歩いてると色んな人から話し掛けられてたし」

ああ、余り自覚はなかったが、それは恐らく。

「それは…私と仲がいいって言うより、母さんのお陰だよ」

「仄さん?」

「お店の常連さんとか結構多いから…だから私に声を掛けてくれる人も多いの。もし母さんがいなかったら、私は…きっと誰とも仲良くなれないよ」

饒舌で男女を問わず人に好かれる母と違い、どうも人と仲良くなるのは得意ではない。

きっと自分が“仄の娘”でなかったならば、こうはいかない筈だ――母に似ているのは顔だけだと心底思い知る。

「違うよ、晴」

「?」