「陸は、海が好きなの?」

また自室の窓から外を眺めている陸に、晴海はそっと声を掛けた。

陸が使っている部屋は窓から港が臨める、この家で一番眺めのいい場所だ。

「うん…好き、かな。何だか海を見てると落ち着くんだ」

陸は、海という言葉は知っていたものの写真でしか見たことがなく、実際見たのは炎夏に来てからだという。

それを聞いたときは、今まで余程奥深い山林にでも住んでいたのだろうかと憶測してしまった。

「でも、今日は少し騒がしいよ」

その言葉に、思わず首を傾げた。

陸の視線の先には、いつもと変わらず穏やかな水平線が広がっている。

普段との差違が何処にあるのか判らない。

「…そう?こんなにいいお天気なのに」

「一見いつもと同じなんだけど、空気が張り詰めてて嫌な感じがする。俺の気のせいかも知れないし、それならそのほうがいいんだけど…」

――また、だ。

緋色の眼が何かを警戒するかのように鋭くなったのに気が付いて、晴海はどきりとした。

「…陸?」

少し不安になって名を呼ぶと、振り向いた陸の表情にはいつもの穏やかさが戻っていた。

「あ…ごめん。晴、どうしたの?」

「えっと、うん、お昼ごはん出来たから呼びに来たの」