太陽はすっかり厚い雲に覆われてしまって、母が言った通り、まだ正午を回ったばかりなのに辺りは夕暮れ時のように薄暗い。

元々あまり陽の射し込まない裏道は一層暗く、一人で通るには少し不安だ。

このまま表通りを行けば人目も多く明るいが、裏道を使うよりも帰宅までに少々時間が掛かる。

…ほんの少し迷ったが、少しでも早くこの雨と雑踏から逃れたいという気持ちが勝り、晴海は裏道に入った。

――裏道の状態はあまり良くない。

左右に白壁が続く道幅は、傘を持って歩くのもぎりぎりで、道というより建物と建物の隙間と形容した方が正し い。

地面は基本的に舗装されておらず、雨が滲んだ土は泥濘んでいて歩きづらい。

それでも道が狭いお陰であまり雨が吹き込まず、表通りよりも雨足が弱いことだけが幸いだった。

降り注ぐ雨粒のせいか、少し気温が下がって肌寒くなってきた。

今日の夕飯は何にしよう、このまま雨が続くようなら温かいものを作った方が良さそうかな。

考えごとをしながら歩いていると、うっかり足元の水溜りを踏んでしまいぱしゃん、と泥水が足元に跳ねる。

「ひゃっ…」

今度は気を付けようと考えつつ次の水溜まりを跳び退けようとして、晴海はふと地面の湿った石畳の上に赤黒い染み を見つけた。

「…?」

部分的に雨に流されているところもあるが、雨足が弱いので完全には消えていない。

その跡は点々と行く先の地面に続いていて、進むにつれ段々と真新しく量が多くなっていく。

(これって…血?)

そのことに気が付いた瞬間、ぞくんと背筋が凍った。