それから、数日が経って。

陸の左腕の傷は順調に回復を見せていた。

当初は左手で何か掴むことすら覚束ない様子だったが、今は野菜の皮剥きなどの料理の下拵えや洗濯物を干すときなどに、家事を大いに手伝ってくれる。

…そもそも、仄は休みだと容赦なく陸に家事を手伝わせるため、早く慣れざるを得なかったのかも知れないが。

しかし陸が作業を覚えるのもこなすのも非常に手早いため、仄は相当喜んでいた。

“陸はいい旦那さんになれるね”が仄の口癖になった程だ。

晴海は、時間を見付けては陸と話すようにしていた。

あまり喋るのは得意ではないが、可能な限り、少しでも陸のことをもっと知りたいと思って。

それを知ってか知らずか、陸も会話を持ち掛けると極力話を続けようと努めてくれているようだった。

あまり詮索するような話題は避けているため、料理の感想だとかどんな食べ物が好きだとか、大体はそんな話に終始してしまうのだが。

それ以外のとき――一人のとき、陸はいつも窓から海を眺めている。

あまり家の外へは出ようとせず、出るとすれば洗濯物を干す際や、猫と遊ぶとき庭先へ出る程度だ。

初めて出逢ったときも、まるで何かから身を隠すように物陰で蹲っていた。

海を眺めながら、ふとあのときのような険しい眼の色に戻って何か考え込んでいることがある。

声を掛ければ、穏やかな表情に立ち戻るのだが。

陸は会話の中で微笑むことはあっても、あまり破顔したり声を上げて笑ったりすることもない。

時折見せてくれる微笑みは何処か寂しそうだ。

何も訊けないならせめて、そんな陸の気持ちを少しでも和らげてあげられればいいのに――