「――京さん!」

翌朝、視線の少し先を歩く背中に声を掛けると、驚いたように京は振り向いた。

「晴海ちゃん?お早う、随分早いね…余り眠れなかったかい」

「いえっ…京さんに逢ってお話がしたくて、それで京さんのことを探してたんです」

「僕を?」

立ち止まった京に駆け寄ると、大きく見開かれた空色の双眸をじっと見つめた。

「昨日の、ことで…」

「ああ、昨夜は驚かせてごめん。僕はどうも弟の話となると冷静でいられなくなるなあ…大人げないところを見せたね」

京は普段通りの、柔らかい口調で微笑む。

確かに、昨夜の京はまるでいつもとは別人のようだった。

「…だけどあれだけ怒るくらい、京さんは陸を大切に想ってるってことですよね」

「え…」

「京さんは陸のことをとても心配してるんだって、解ります。だから…どうしても京さんに申し訳なくて」

「晴海ちゃん、それは」

小さく首を振る京に、晴海は同じように首を振って見せた。

「周さんも私のせいじゃないって言ってくれました。けれど私は、陸を信じようとしなかった」

あのとき、陸を信じて引き留めていれば何か変わったかも知れない。

風弓のことだって、周や京に相談すれば他の解決策が見付かったかも知れないのに。