咄嗟に大声を上げると、架々見も如月も面食らったようにこちらを振り向いた。

風弓を殺させることも、彼の身代わりに晴海が狙われることも、避けさせなければ――

「…風弓は俺を見逃したから咎められてるんだろう?だったら俺が何だってあんたたちの言う通りにする…だから風弓には手出しするな!!」

すると如月は多少苛立ちを含んだような声色で、探るような視線をこちらへ寄越した。

「殊勝な心掛けだな、陸。素直に戻って来たのはそれが目的か」

命懸けで守ってくれた充や風弓の行動を、無為にしたくはなかった。

両親や兄の傍を、もう離れたくはなかった。

けれど、最も強く胸を締め付ける想いは――晴海や仄に対する贖罪の念だ。

本当なら風弓が炎夏に現れた際にもっと強く、彼を引き留めるべきだったのだ。

「…いいだろう。可愛い陸からのおねだりだ、聞き届けてやろうではないか」

如月との遣り取りを見守っていた架々見は、くつくつと喉を鳴らしながら気味の悪い笑みを浮かべた。

「だが理解し難いな。お前たちは何故、そうまでして他人のために自己を犠牲にする?肉親との絆か、他人への情や愛か?」

(あんたなんかに、理解されなくてもいい――されて堪るもんか)

「下らないな…所詮そんなものは脆く儚いということを、身を以て思い知らせてやる。お前にも、私に楯突いたあの若造にも…!!」





猜疑(さいぎ)との代償の喪失 終.