「架々見様?こちらにおいででしたか」

ふと割って入った声に、架々見は襲い掛かるかの如く勢い良く振り返ったが、その相手が如月だと気付くと何事もなかったかのように冷静な表情に立ち戻った。

「…如月か。何の用だ」

如月は陸の目の前であることを意識してか否か、少し躊躇いがちに目を泳がせた。

「例の……風弓の件についてですが」

「!!」

陸が弾かれたように顔を上げると、架々見は愉しげに目を細めて如月へ向き直った。

「あの、裏切り者の息子か?私は父親と同様の処分を下すよう命じた筈だが」

「は…ですが先の作戦で金の能力者二人を失った今、これ以上、手数を減らすのは避けたいところでして」

如月の口振りからすると、風弓はまだ無事ではあるようだ。

それに金の能力者の二人を失ったとは――葵と茜の二人は一体どうしたのか。

「裏切り者は所詮、また不利益を生むことしか行わない。それに陸を取り戻した今、多少の損失などは大して問題ではないだろう?」

「しかし被検体の能力者は複数いたほうが好都合…様々な症例を確認するためにも、他が使い物にならなくなったときの予備としても」

「お前も才臥に関しては妙に肩入れするな?同郷の誼(よしみ)か、それとも個人的な思い入れでもあるのか」

「っいえ、私はただ月虹にとって常に最善策を講じているだけのこと…」

「何度も言わせるな、如月。私は才臥も奴の息子も、有用な人材と捉えたことなど一度もない。もう一度だけ言うぞ、奴を殺せ」

「は…」

「っやめろ!!」