「少し見ない間に、すっかり私に生意気な言葉を聞くようになったものだ。外の世界で余計なものに触れた影響か」

架々見はそのまま、首筋を撫で回すように指先を襟足へと滑らせた。

「それに…ああ、私に断りもなく髪を切ってしまったのか。折角の美しい銀の髪が台無しだ」

そうだ――この男にこんな風に、髪を触れられるのが耐え難い程に嫌だったことをふと思い出す。

架々見がこの髪のことを口にするだけでもざわざわと寒気がして、掛けられる言葉の意味とは裏腹に酷く惨めで陰鬱な気分に陥る。

しかし今は以前とは違い、相手に屈することのほうが耐え難くて、負けじと架々見を睨み返した。

「その、眼……お前はそうやってまた、忌々しい紅い眼で私を射抜くのか」

そう独白のように呟いた架々見の掌に、突然頬を強かに打ち据えられる。

「っ…!!」

「何度言えば解る?!そんな眼で、あのときと同じ眼で、私を見るなあっ!!」

不意に熱(いき)り立って声を荒げた架々見は、前髪で隠れた左眼を咄嗟に庇うように押さえ付けた。

――これまでに幾度となく繰り返された、遣り取り。

架々見はこうして陸の元を訪れては銀の髪に触れて悦に浸り、紅い眼と目が合えば突如として取り乱す。

そして理解の範疇(はんちゅう)を超えた狂気に圧倒され怯えた目付きを向けると、心底満足げに笑いながら落ち着きを取り戻すのだ。

今まではただ目の前の男に畏怖することしか出来なかったが――今は、違う。

疎ましいと思っていた白銀の髪と理由も解らぬままに憎まれていた深紅の眼が、誰から受け継がれたものか知っているから。

この髪と眼の彩りを、純粋に綺麗だと評して貰えることの嬉しさを知ったから。

そしてこの男が自分を通して何を視ているのか、気付いてしまったから――