――暗い…

何も、聴こえない。

幾度となく夢で見続けた、黒くて暗い、深い闇。

またその闇に呑み込まれてしまったのか――掛け換えのない、大切な人々を置いて。

家族のことを想うと心苦しかったが、晴海のことを考えると、胸が潰れそうな程に痛んだ。

夕夏と賢夜は一体どうなったのだろう、無事だろうか。

「陸」

――ふと名を呼ばれた瞬間、陸はぞくりと背筋が凍るような悪寒を感じて身震いした。

「漸く帰ってきたな、私の可愛い子兎」

「っ…!」

声の主が、暗闇の向こうからゆっくりと歩み寄ってくる。

その気配から逃がれたいのに、四肢はまるで寒さで凍り付いたかのように動かなかった。

「架々、見…」

恐る恐るその名を口にした瞬間、周囲が明かりに照らされた。

同時に、声の主である男――架々見(かがみ)の姿も目の前に映し出す。

「あの小賢しい才臥に唆(たぶらか)されたせいで、随分と私の言い付けを破ってしまったようだな」

不快げに目を細めた架々見の手に、するりと顎を捕らえられる。

「っ充さんのことを貶すのは止めろ…!」