「愛…ちゃん?」

今までの畏まった口調ではなく、親しみが込められたその言葉に首を傾げたが、咲良は笑い返すだけだった。

「…陸様のことは必ず京様と旦那様が取り戻されるわ。それまではつらいでしょうけれど…余り気を落とさないようにね」

「は…はい」

「お邸の警備は強化されてる筈だけど、何か変わったこととか気になることがあったらすぐに呼んで頂戴」

香也に連れ出された際は誰かを呼ぶ暇(いとま)すらなかった、とはいえ予兆は確かにあった。

…あのとき香也は、きっと侵入経路の確認でもしていたのだろう。

そのことを事前に京や陸に話せていれば――なんて、過ぎたこととはいえやはりそんな風に考えてしまう。

「ほら、元気出して」

すると思い詰めた顔付きをしてしまっていたらしく、咲良が苦笑しながら手を強く握り直してきた。

「…有難う、咲良さん」

そうだ、落ち込んでばかりではいられない。

今の自分には何が出来るか、何をすべきか。

誰かに守られてばかりではなく、自力で考えないと――


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