――あのあと、暫く宥められてやっと落ち着いた晴海は、周が呼んでくれた使用人の女性と共に自室へ戻ってきた。

「…すみません、恥ずかしいところお見せしちゃって」

「いいのよ。若い女の子相手におろおろする旦那様なんて久々に見れたから、面白かったわぁ」

「あ、はは…」

咲良(さくら)という名前の女性は使用人たちの中でも古株らしく、何でも周が生まれたときからこの邸に仕えているらしい。

京や陸のことも、彼女が世話役を務めていたため二人が小さい頃も良く知っているようだ。

「あの、咲良さん」

「はいはい?」

晴海の寝床を綺麗に手直ししてくれながら、咲良はくるんとこちらを振り向いた。

「小さな頃の、陸と京さんって…どんな感じでしたか?」

陸や愛梨を掛け替えのない存在だと言っていた、京。

しかし美月は、その京に対して血の繋がりの希薄さを口にした。

周の人柄では考え難いが、確かに由緒ある家柄の異母兄弟と聞くと複雑であったり険悪な間柄になりそうな印象もある。

これまでの京の様子を見る限り、そんな不穏な気配は微塵も感じられなかったが。

もしも、誰かが陸を陥れるための画策をしていたなら――それが誰なのか確かめたかった。

「そうねぇ…お二人共、女の子みたいに可愛らしくて。本当に仲睦まじいご兄弟でね、陸様はいつも京様の後をついて回ってらしたわ」

そんな幼い頃の二人の姿を想像したら、何だか微笑ましい気分になった。

「京さんは、昔から優しいお兄様なんですね。まだお逢いして日は浅いですけど…陸のことをとても大切にされてるって、見ていても良く解ります」