突如割って入った声の主を、京は敵意を露にねめ付けた。

「失礼致しますわ、旦那様。入室前に何度も声はお掛け致しましたのですが」

相手は京の刺すような視線をものともせず、その目の前を横切って周の傍へ歩み寄った。

「…美月」

周が複雑そうな表情で、その名を呟く。

「京様は元々昔から私を余り快く思っていらっしゃらないようですけれど」

美月は負けじと、睨むように京を見返した。

「この家に仇なすような真似が、私には出来る筈もありませんわ。そんなことをすれば私は先代様…周様のお母上に顔向け出来ませんもの」

「貴女は僕ら兄弟や母さんが邪魔なんだろう…!父さんから僕らを遠ざけたいんじゃないのか!?」

美月の言葉尻を遮るように、京が声を荒げた。

「お言葉ですが京様。その理屈であれば、疑わしいのは貴方様とて同じですわ。陸様とは半分しか、愛梨様とは一切、血縁の繋がりはございませんでしょう?」

「っ!!ふざけるな…!貴女は僕の母様だってっ…!!」

「やめろっ!!」

不意に上がった威圧的な怒声に、其処にいる者全員が息を飲んだ。

「…京、落ち着け」

直前とは打って変わって哀しげな声色に宥められ、我に返った京はかくんと項垂れた。

「っごめん…」

そのまま小さく謝罪すると、京は足早に部屋から出ていった。