慌てて立ち上がると、周に「解ってるよ」と陸と良く似た笑顔で笑い掛けられた。

「…だったら尚更じゃないか」

――不意に、今までずっと黙って話を聞いていた京が低い声でそう呟く。

「京…」

「京さん?」

「陸が此処に帰ってきたことも、その傍に陸にとって大切な相手がいることも知っているのは春雷の中でも限られた人間しかいない」

京は突然、周へ食って掛かるように詰め寄った。

「なのに昨日の今日で、月虹が陸を取り戻しに春雷を襲って来るなんておかしいじゃないか!」

「京、落ち着け」

「それに…陸が戻ってきたことを知らせておけば、住民たちをあんなに不安にさせることもなかったんだ」

「お前の言いたいことは解るよ、だが…」

周が諌めようとするが、京は堰(せき)を切ったように言葉を続けた。

「僕だって、誰かを疑るようなことは言いたくないよ…!だけど結果的に、陸はまた月虹へ連れ去られて、住民たちの不信感まで煽られてるじゃないか!!」

「それはっ…」

周も京の言葉に痛い所を突かれたのか、苦々しげな表情で口籠った。

まさか、いつも優しくて穏やかな京が、こんな姿を見せるなんて思いも拠らなかった。

「父さん…!そうするよう勧めたのは、あの人だろう?陸を気遣うためだと言えば、父さんが判断を誤るだろうと彼女は見透かしてたんだ!!」

「――私が周様を裏切った、そう仰りたいようですわね。京様」