京に連れられて、広間とは別の場所にある階段から上階へ向かう。

その間、やはり京は一言も言葉を発さなかった。

――重苦しい雰囲気の中、着いた先は周の仕事部屋だった。

昨日この部屋を訪れたときは陸が一緒だったことを思い返し、遣る瀬ない気持ちに陥る。

あのとき陸を信じると言えていたら、陸は月虹に連れ戻されることを選ばないでくれただろうか。

押し黙ったまま暫く待っていると――走ってきたのか少し息を切らせながら周が部屋へ入ってきた。

「…すまない、待たせたな」

「父さん」

周はこちらと目が合った瞬間、突然深々と頭を下げた。

「周さんっ!?」

「…まずは謝らせてくれ。君が邸から連れ去られたことに気付けなくて…君を危険な目に遭わせてしまった。申し訳ない」

「そん、な」

自分自身、香也に邸から攫われたときのことは良く覚えていない。

確か夕夏たちと玄関の広間の前で別れて、自分が使っている部屋に戻ったところまでは覚えている――

其処で記憶が途切れているということは、その瞬間に意識を失ったと思われる。

「…私をお邸から連れ出した香也という男は、自分のことを魔道士だと言いました。陸とは相反する力の持ち主だ、とも」

「…魔道士?!」

その瞬間、京と周がほぼ同時に声を上げた。